乳がんと診断された方へ|患者さんへ
手術について
乳がんの手術は、乳房の手術とわきのリンパ節の手術の2つに分けて考えます。
- ◆乳房切除術…乳房をすべて切除します。通常は胸の筋肉は切除しません。標準的には乳頭・乳輪も含めて切除しますが、がんの状況によっては乳頭乳輪の温存を試みることもあります。術後、様々な方法で乳房を再建することも可能です。再建については後述します。
- ◆乳房部分切除術(温存術)…乳房を部分的に切除し、乳房自体は温存します。
いずれの方法をとっても治療効果に変わりはありませんが、部分切除の場合は、残存する乳房に放射線治療を行うことによって乳房切除と治療効果がほぼ同等となります。放射線治療に関しては別に述べます。
再建について
乳房再建とは、手術によって失われた乳房を再建することです。乳房を再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響したりすることはありません。
乳房再建には大きく分けて、自家組織による方法と人工乳房による方法があります。2013年7月より、人工乳房による乳房再建に関しての保険適用が認められました。京大病院は日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会よりインプラント、エキスパンダーの使用それぞれについて実施施設認定を受けています。
また、乳がんの手術と同時に再建手術を行うものを「一次再建」、乳がんの手術後に改めて再建手術を行う場合を「二次再建」といいます。
乳房再建を一回で行う場合を「一期再建」(エキスパンダーで皮膚を伸ばさない)、二回に分けて再建する方法を「二期再建」(エキスパンダーで皮膚を伸ばす)といいます。
以下では再建法について簡単にご説明します。
ご自分の体の一部の組織を胸に移植する方法で、1.お腹の組織を移植する方法、2.背中の組織を移植する方法、などがあります。エキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を使用する場合もあります。 いずれの方法も下腹部あるいは背中に傷が残ります。人工乳房に比べると手触りや形態は自然で、人工乳房と違い自分の体の一部となりますので、後々の感染やトラブルの心配がありません。 しかし、血行の問題から移植組織がうまく生着しない可能性が低確率ですがあります。また、放射線治療後にも行えます。
(お腹の組織を移植する場合)
乳房を切除した後、エキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉の下に入れ、その袋の中に徐々に生理食塩水を入れて皮膚を伸ばし、乳房の形に膨らませます。 その後、エキスパンダーを取り出して人工乳房(シリコンインプラント)に入れ替えるという方法です。体の他の部位に新たな傷はできないという大きなメリットがありますが、 自家組織と違い、シリコンインプラントは自分の体の一部にはなりませんので、後々の感染や露出などのトラブルの可能性があり、半永久的にもつものではありません。 放射線治療後の人工乳房による再建はエキスパンダーやインプラントの感染や露出などのトラブルの確率が高くなります。
再建法を決定するためには、癌の進行度合い、今後の治療予定などについても考慮する必要があります。乳房再建を希望される場合、 それぞれの再建方法について良い点、悪い点を形成外科医から説明を受けていただき、乳腺外科担当医とも十分話し合った上で手術方法を決定することが大切です。
わきのリンパ節の手術
乳房内の癌細胞が最初に転移するリンパ節のほとんどが「わきのリンパ節(腋窩リンパ節)」です。腋窩リンパ節は腋窩の脂肪の中に存在しており、リンパ節の取り残しがないよう脂肪も含めて切除することを「腋窩リンパ節郭清」と呼びます。
切除した後リンパ節を取り出して転移があるかどうかを調べます。転移がある場合は、転移のない場合と比べて手術後に他の臓器に転移する確率が高いことがわかっています。
腋窩リンパ節郭清は乳がんに対する標準治療として行われてきましたが、2000年代前半からはより負担の少ないセンチネルリンパ節生検が普及しはじめ、
現在では触診や画像診断などで腋窩リンパ節への転移がないと判断した場合はまずセンチネルリンパ節生検を行います。病理検査でセンチネルリンパ節に転移がなければ、リンパ節の郭清を省略することが可能です。
一方、手術前に腋窩リンパ節転移があると診断された場合は最初から腋窩リンパ節郭清を行います。
従来から行われているリンパ節をすべて摘出する方法です。手術前に腋窩リンパ節転移が疑われる方や、何らかの原因でセンチネルリンパ節生検ができない方、センチネルリンパ節生検で術中に転移が見つかった方に行います。
この方法では腋窩のリンパ節を一定範囲しっかり切除しますので、転移の有無や転移の個数が正確に診断できますし、腋窩リンパ節への再発の予防にもなります。
しかし腋の深いところまで手術範囲が及ぶため、手術後、手術した側の腕に動かしにくさや痛み、リンパ浮腫などの後遺症が出ることがあります。腕や肩が動かしにくくなるのを予防するためのリハビリテーション(運動)や、リンパ浮腫の予防などについては手術後に説明を行っています。
手術後の症状については随時必要なケアを行っていきますので、担当医に相談してください。
手術前に腋窩リンパ節転移がないと診断されている方が対象になります。術中の病理検査でセンチネルリンパ節に転移がなければ、リンパ節の郭清を省略することが可能です。
センチネルリンパ節を見つける方法にはさまざまなものがありますが、京大病院では微量の放射性同位元素(わずかな放射線を発する物質)を乳輪に注射するRI法とインドシアニングリーンという蛍光色素を注射するICG蛍光法を用いており、両者を単独で、あるいは併用して行っています。
ほぼ全例の患者さんでセンチネルリンパ節が見つけられますが、まれにみつからない場合もあります。その場合は、腋窩郭清術に切り替えます。
センチネルリンパ節に転移があるかどうかは、京大病院では手術中に2つの方法で検査をします。検査の方法として、1つは以前から行われている迅速診断の方法で、手術中に組織を顕微鏡で観察するためには組織を凍らせ、凍結標本作製装置で薄い標本を作ります。
病理診断科へ組織が届けられてから約30分で結果が出ます。もう1つはOSNA法と呼ばれる新しい検査法です。専用の装置と薬を用いることによって、リンパ節中の癌細胞由来の遺伝子を増幅して測定し、手術中にリンパ節転移の有無を検査することができます。
手術後には再度標本を詳しく検査します。手術中に転移がないと診断された場合でも、手術後の検査で転移が見つかることがあります。その場合は後日改めて腋窩郭清を行うか、または最近の研究結果を踏まえ、リンパ節転移の大きさや個数、乳がんの性質、術後予定される治療、患者さんの年齢などを考慮した上で、腋窩リンパ節郭清を省略することもあります。