京都大学乳腺外科の紹介

研究|京都大学乳腺外科の紹介

当教室では、乳がんの発生や進展・転移という生物学的な特性について分子生物学的な研究を進めると共に、個々の症例における特性の把握を通して、予防や治療の最適化、個別化治療のためのシステム作りを目指した研究を進めています。
また、予防、診断から治療、治療後のQOL(生活の質)までを視野に入れた、全人的な医療を行うための基盤となる研究を行っています。

乳がんの治療効果予測のためのバイオマーカーに関する研究

花の写真乳がんの治療は、化学療法・分子標的療法・ホルモン療法・手術・放射線療法を組み合わせ、さらに様々な支持療法を合わせて行う集学的治療が行われています。
この種々の治療法の中から最適な治療方法や組み合わせを選択するためには、治療効果予測因子としてのバイオマーカーの開発が不可欠です。

そこで、プロテオミクス・ファーマコジェノミクス・分子生物学を駆使してがん組織における遺伝子増幅、遺伝子多型(SNPs等)、遺伝子変異、蛋白発現、さらには血液中の蛋白や腫瘍関連細胞を用いて、治療効果予測因子の同定・解析を行っています。

個別化治療のための治療モニタリングシステムの開発

種々の治療法の中から最適な治療方法や組み合わせを選択するためには、治療前の効果予測のみでなく、治療開始後に効率的に治療モニタリングを行うことも重要です。

そこで、治療モニタリングのため、循環血液中腫瘍細胞(CTC)、循環血液中血管内皮細胞(CEC)、循環血液中内皮前駆細胞(CEP)の計測を行い、治療の最適化のためのモニタリングシステムの構築について研究しています。
また、腫瘍細胞から放出される、アポトーシス産物や、タンパク質の測定により、治療効果をリアルタイムで測定する方法について研究しています。

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新規バイオマーカーを導入した乳がん診療アルゴリズムの構築

個別化治療を具体化するため、新規のバイオマーカーを導入することにより、乳がん診療意思決定のためのシステムの構築・開発を行っています。
また、病態シュミレーションモデルを作成し、腫瘍病態特性と種々の治療による集学的治療との有機的連結による高次の診療システム作りを目指しています。

このシステムは、乳がんの治療のみを目的としたものではなく、個人個人のQOLの最大化を目的とする治療方針決定のためのシステムとなるような開発を目指しています。

抗腫瘍薬の作用メカニズムに関する研究

花の写真今日、抗腫瘍療法には、化学療法の他、ホルモン療法、分子標的療法などがあります。これらはそれぞれ異なる作用機序でがん細胞の増殖抑制や死滅を誘導しますが、実際のがん組織の中での作用メカニズムは不明な点が少なくありません。
また、治療薬に抵抗性のがんや、反応性を有していてもある期間治療するとその治療に不応性になるという現象がみられます。

よって、それぞれの薬剤の作用メカニズムを解明することにより、より効果的な治療が可能になり、また耐性獲得の予防や耐性獲得後の治療反応性の再導入が可能になると考えられます。

そこで、培養細胞や担がん動物を使用して薬物に対する細胞や組織の基礎的な応答を調べると共に、実際の腫瘍組織や生体の反応を調べることにより、薬剤の作用メカニズムの解明を目指しています。

発がんメカニズムに関する研究

がんの発生においては、増殖能の獲得やアポトーシスの回避、免疫回避などのいくつかの形質の獲得が必要と考えられています。
当教室では、DCIS (ductal carcinoma in situ)をモデルに、臨床検体を利用して、こうした実際の形質転換について解析すると同時に、細胞の三次元培養を用いてDCISの発生メカニズムの解明を行っています。

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転移メカニズムに関する研究

乳がんは、リンパ節の他、肝臓や肺・骨・脳などへ血行性に転移をきたします。長年、血液中の腫瘍細胞が血行性転移に関与することが示唆され、現在では血液中から単離する事が可能となりました(CTC)。
花の写真さらに、腫瘍細胞以外に血管内皮前駆細胞や骨髄細胞などがんの転移巣の形成に必要な細胞が血液を介して転移巣へ集まることが示唆されています。

これらの腫瘍関連細胞の解析を通して、実際の体内で起こっている転移メカニズムの解明を目指しています。
また、細胞の浸潤能や運動性に影響を及ぼす蛋白質(small GTPaseなど)の解析を通じて、がん細胞の転移能獲得機構の解明のための研究を行っています。

乳癌術後再建のための脂肪組織再生に関する研究

乳癌の手術によって乳房は変形しQOLを大きく損ないます。
術後乳房再建には腹直筋皮弁法、各種インプラントを用いた方法などがありますが、それらには長所もあれば短所もありますので脂肪組織再生が期待されています。

脂肪組織由来幹細胞は脂肪組織から分離でき、脂肪へと分化する細胞を含んでいる細胞群です。
自己の脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を分離し、増殖させた後に足場とともに移植すれば拒絶反応は起こりにくいと考えられます。

当教室では将来の臨床応用を目指して、京都大学再生医科学研究所および田附興風会医学研究所北野病院と共同で、ヒト脂肪組織由来幹細胞を用いた脂肪組織再生に関する研究を行っています。

臨床試験

従来の治療法の中には、個別の治療としては確立されていても、それをどのように組み合わせるのが最も効果的なのか、あるいは、使用するべきだと考えられていた治療法は本当に必要なのかなど、未だ明確になっていない問題があります。

これら未解決の問題を明らかにし、有効な治療を効率的に行うことを可能とするために、様々な臨床試験を計画、実施しています。
また、上述の研究からでてきた治療効果予測因子や、モニタリングマーカー、診療アルゴリズムの有効性を検証するために臨床試験を行います。

臨床試験には、治療効果を高めることを目的とした試験の他、過剰な治療を避けるために治療の必要性を検討する試験、また支持療法による副作用の軽減を目的とした試験などがあり、これらの臨床試験を通して、個人のQOLの最大化を可能とする治療法を確立することを目指しています。

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